SCROLL

Introduction

今年(2020年)9月5日、総視聴者数約70万人を記録した『THE FIRST TAKE FES vol.1』。その第二回目となる『THE FIRST TAKE FES vol.2 supported by BRAVIA』が早くも11月13日に開催された。
今回、登場したのは竹内アンナ、Cö shu Nie、緑黄色社会、そしてYUIの4組である。

都内の某ライブハウスに用意されたシンプルなステージ。
バックグラウンドは白一色。照明は極めてフラットかつクリアな光量がキープされ、華美なセットやスモーク等の特効も一切無い。

現地にオーディエンスはおらず、入場から退場までの一部始終を収める映像と音声は複数台の定点カメラと高感度のコンデンサーマイクで収録され、追加の撮り直しもオーバーダブ(追加録音)も一切ない。
言わば“一発撮り”だ。

独特な空気が張り詰める静謐な空間でアーティスト各々の“THE FIRST TAKE”を切り取る。それが『THE FIRST TAKE FES』のコンセプトである。

パフォーマンスや演出、選曲についてのルールも特に設けられていない。
YouTube配信のための最適解として16:9のバランスで設営された白いステージのみという環境の下、全ての判断はアーティスト各々に委ねられている。

今回、竹内アンナが、Cö shu Nieが、緑黄色社会が、そしてYUIが見せた“THE FIRST TAKE”とは? その模様をレポートする。

Stage no1 anna takeuchi M1. Free! Free! Free!

トップバッターは竹内アンナ。
ロサンゼルス生まれ・京都育ち。現在も京都に在住する22歳の現役大学生の彼女は、全国のFMチャート番組での上位ランクインやテレビドラマの主題歌提供など、すでに各方面から注目を浴びているシンガーソングライターである。

サポートメンバーと共にステージに登場した竹内は、ヘッドフォンを着け、ギターを抱え、チューニングを確認すると、笑顔でこう言った。
「独特の雰囲気。緊張もしますけど、それよりも断然ワクワクの方が勝っていて。今日は楽しんで歌いたいと思います」

2018年にはテキサス州オースティンの「SXSW 2018」や「Japan Nite US tour 2018」に出演。国内外で多くのライブ経験を積んでいる彼女だが、それでも『THE FIRST TAKE FES vol.2』の独特なステージの空気に、明らかな緊張が見て取れる。

だが、それは足下のエフェクターを踏み、「Free! Free! Free!」を歌い始めた瞬間に一掃された。

強く問いかけ、訴えられる〈わたしらしさ〉。「Free! Free! Free!」は、ロック、R&B、ジャズなど多彩なルーツを持つ彼女のポップな音楽性が、キャッチーで疾走感のあるメロディとアレンジに凝縮されたナンバーだ。

澄んでいるようでちょっとクセのある魅惑的な声質。抑揚の効いたボーカル。安定したカッティングと跳ねるようなスラッピングを奏でる高度なギターテクニック。
その全てが物憂げさを抱えたまま爽快なグルーヴを重ねていく。

エンディングでは頭からヘッドフォンが外れて落ちるほどの勢いで曲を締めた。
「めっちゃ緊張したんですけど、楽しかったとしか言いようがない。あっという間の時間でした。ありがとうございました」

もっと聴きたい。そう率直に感じた。一曲ながらも確かな存在感を見せつけたパフォーマンスだった。

Stage no2 coshunie M1. 絶体絶命 M2. 黒い砂

2組目はCö shu Nie。
2018年、テレビアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』のオープニングテーマ「asphyxia」でメジャーデビューすると、次々とテレビアニメのテーマ曲を手掛け、昨年(2019年)12月、1stアルバム『PURE』をリリースした3ピースバンドである。

このフェスの起点であるYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』には、中村未来(Vo, G, Key, Manipulator)のみが2度に渡って登場していたが、松本駿介(Ba)、藤田亮介(Dr)が揃った完全体としては初の『THE FIRST TAKE』となる。

圧倒的な演奏力を誇るバンドサウンドとシーケンスサウンドのミックスによって、繊細なまでに構築されたケオティックな楽曲の世界は『THE FIRST TAKE FES』でどう表現されるのか。

その期待感は三人がヘヴィなリフを刻んだ途端に快感へと変わった。
挑発的な笑みと共に発した「御機嫌よう、Cö shu Nieです」というMCで、中村は一気にステージをCö shu Nie色に染め上げたのだ。

「絶対的に美しい時間にします」。鳴らされたのは「絶体絶命」。テレビアニメ『約束のネバーランド』のエンディングテーマだ。

〈明日を掴むために 絶望を駆け抜けろ〉。螺旋階段を転げ落ちていくかのようにスリリングなアレンジを鳴らし、絶望と不屈が甘美なボーカルで歌われていく。

演奏を終えると中村はギターを下ろし、キーボードへ向かう。
「THE FIRST TAKE FES。Cö shu Nie。私たち、共犯者でしょ?」

中村がオーディエンスに向かって語りかける。
最早、単独ライブのようにステージを支配する三人が次いで披露したのは「黒い砂」。11月11日にリリースされたばかりの6曲入りミニアルバム『LITMUS』に収録されているナンバーだ。

「絶体絶命」から一転、中村が奏でる繊細な旋律を松本と藤田が抑制の効いたプレイで支える。両手から永遠が溢れる刹那を描き切ると三人は静かにステージを去った。
Cö shu Nieが持つライブバンドとしての確かな実力を思い知らされる8分間だった。

Stage no2 Ryokuoushoku Shakai M1. Mela! M2. LADYBUG

3組目は緑黄色社会。
着実なライブ経験を経て2018年にメジャーデビューを飾ると幅広い支持を獲得し、数々の映画、テレビドラマ、アニメから主題歌のオファーが寄せられている愛知出身の4ピースバンドである。

「聴こえる?」「聴こえるよ」。サポートのドラマーを含めた5人は、ヘッドフォンを着けると互いの声を確かめ合いながら笑顔を見せる。

長屋晴子(Vo,Gt)は3回目、メンバー全員では初の「THE FIRST TAKE」である。
「私の方が先輩だね。先輩がすごい緊張している。あー、緊張する」
長屋の落ち着かない様子に、小林壱誓(Gt,Cho)、穴見真吾(Ba,Cho)、peppe(Key,Cho)が笑顔で応える。
「じゃあ行きましょう。「Mela!」」

長屋が放たれたように「Mela!」の冒頭を高らかに歌い始めるとバンドがカラフルなビートを弾き出す。ヒーローになりたい〈僕〉が〈君〉のヒーローになりたいと語りかける。〈僕〉の物語がリスナーの物語となっていく。

それにしてもリリースを重ねる毎にパワーとテクニックが向上の一途を辿ってきた長屋の歌声だが、あらためてその表現力に引き込まれる。全員のコーラスワークも鮮やかだ。

「今ね、足がぷるぷるしてるの」
長屋がメンバーに苦笑する。力強いボーカルとまだ緊張が解けないMCとのギャップが微笑ましい。

「何か「Mela!」やるとさ、ちょっと気持ちが穏やかになるね」(小林)
「(※呼吸を整えながら)分かる!」(peppe)、
「ライブハウスみたいに気持ちが上がってくる」(穴見)

「楽しむために、行きますか」。ギターを抱えた長屋が「今日初めて演奏する曲です」と告げると「LADYBUG」が始まった。すでにニュース番組『サタデーステーション』と『サンデーステーション』の共通オープニングテーマとして多くのリスナーに届けられているが、まだリリースされていない新曲である。

希望を歌うリリックがスパニッシュやサンバのエッセンス香る叙情的なメロディとアレンジでポップに奏でられていく。長屋の堂々とした伸びやかな声が白一色のバックグラウンドに力強くこだました。

「結構いい感じだったんじゃない?」。peppe、小林、穴見が異口同音の感想を口にした。
長屋は「今までとは違った雰囲気の新曲を、こういう場でやらせてもらえたのは有難い。初めての経験だね」と応えて、その実感を確かめるように何度も頷いていた。

4組目として今回のヘッドライナーを飾るのはYUI。
「FLOWER FLOWER」のボーカル&ギターとして活動中のyuiが、ソロシンガー時代の“YUI”名義でパフォーマンスをするのは実に8年振りとなる。

ステージの中央で腰を落として胡坐を組む。
そしてヘッドフォンを着けると、ギターを携えて、弦を爪弾き、ハミングを始める。久し振りの“YUI”がそこにいた。

1曲目は「TOKYO」。上京当時の思いを歌った、自身の原点とも言える大切なナンバーだ。彼女は目を閉じ、ゆっくりと、そしてじっくりと、リリックの一語一句を噛み締めるように歌っていく。

「8年振りに歌ったので緊張しました。(ちゃんと)歌えたかな」

YUIはそう言って椅子に座り直すと、ステージに加わったサポートの佐藤嘉風に「ライブ前にすることとかあります? 発声練習とかストレッチとか」と語りかける。
佐藤が唇を震わす発声練習を披露すると「そろそろやってみようかな」と思案して見せる。この日のステージで最も穏やかな空気が流れた時間だった。

佐藤のアルペジオを合図にYUIがストロークと口笛を鳴らす。
ソロ時代の代表曲「CHE.R.RY」だ。
イントロを奏でながら二人はアイコンタクトを交わす。歌い出しのタイミングを迎えても、YUIはわざと口笛を吹き続けてなかなか歌い出さない。彼女のサプライズに佐藤が参ったという表情で苦笑しながら仰反る。

ようやく歌い出したYUIは佐藤を見つめて小さな笑みを見せる。
途中、アカペラのパートを設けて奏でられた二人のハーモニーも美しく、多くのリスナーに愛されてきたヒット曲を、彼女は、終始、穏やかな表情で歌い上げた。

「どうでした?」(YUI)、「ドッキリした。混乱した」(佐藤)。驚かされた佐藤は本当に気の毒だったが、YUIとしては久々のアコースティックなパフォーマンスは、彼女の小さな悪戯を挟んで和やかに幕を閉じた。
気付けばデビュー15周年。今後の活動にも大いに期待が募るパフォーマンスだった。

終演後の彼らに話を聞くと、思い思いの言葉が返ってきた。

「試されているような、全部を見せ合うような、ここでしか体験することの出来ないライブでした。塞ぎがちな時期だけど、歌詞の通り、思い思いに楽しんでもらえたという思いで「Free! Free! Free!」を演奏しました。そして私自身、自分の日常には音楽が必要なんだとあらためて確認することが出来た時間でした」(竹内)

「緊張は勿論、久々のライブだったので懐かしさも入り混じったような、不思議な気持ちでした。「黒い砂」は初披露でしたが、この白い空間にきっと合うはずだと思って。(コロナ禍で)世界中の人が同時に同じ出来事を体験しています。それはすでに私たちの音楽制作にも影響を及ぼしていると感じています」(中村)

「普段の比じゃないくらい緊張しました。過去の『THE FIRST TAKE』とも全く違った。『THE FIRST TAKE FES』は新しいジャンルを開拓しているフェスだと思います。新曲の初披露はいつもドキドキしますが今回はやはりこのフェスだなって。日頃、自分の周囲で『THE FIRST TAKE』のリアクションをよく耳にします。私たちは結成当初から「世界で活動するバンドになりたいね」と話してきたので、様々な国の皆さんに私たちの音楽が届くきっかけとなればうれしいです」(長屋)

「ライブ表現の形の変化を肌で感じたフェスでした。8年振りの「TOKYO」はかつてのソロライブツアーで最後に歌った曲。再びこうした場で歌うとは思ってもいませんでした。「CHE.R.RY」のドッキリは、前回の『THE FIRST TAKE FES vol.1』の岡崎体育さんのライブを観て「こういう面白いことをしている人もいるんだ!?」と真似したくなって(笑)。(コロナ禍は)不自由なことも多いけど、自分を成長させる時間なのかもしれないと今は捉えています。デビュー15周年を迎えられた感想は感謝しかありません。この感謝をどこかで形にしながら、新しいことにもトライしていけたらと思います」(YUI)

11月13日22時から行われたオンエア時のリアルタイムプレミア公開視聴者数はMAX時で35,000を超え、終了後には1時間以内に再生回数が126,000を超えた。
前回の『THE FIRST TAKE FES vol.1』と同様、コメントは英語を含む多言語でも多々寄せられていた。海外からのアクセスが多い点も『THE FIRST TAKE』の特色である。

なお、今回の音声収録にあたっては前回の『THE FIRST TAKE FES vol.1』から得た経験を元に、マイクの位置や本数について更なる調整が行われた。演奏は勿論、アーティスト各々がフロアからステージへ向かう際の足音からMC時の細やかな息遣いまで、前回以上に多くの音が、しかもよりクリアに聴こえてきたはずだ。

最後に、今回も全ての収録は全キャスト・スタッフへの検温実施、マスクやフェスガードの装着、ソーシャルディスタンスやステージ上でのアクリル板の設置など、徹底した感染予防対策のもとで行われたことをレポートしておきたい。
さらに、今回も全てのパフォーマンスが、確かに撮り直し無し・一発勝負で記録された点も改めて記しておく。

ライブパフォーマンスが持つ“再現不可能”な芸術性を極限まで純化させた『THE FIRST TAKE FES』。無垢な空間から生まれる、次なるTHE FIRST TAKEのドラマに期待したい。

(TEXT:MASAKI UCHIDA)